雨傘さす夢
ちりんちりん、と心地の良い鈴の音。
ずっしりと重い、お世辞にも開けやすいとは言えない木製のドアを押し、一歩進んだ先に広がるコーヒーの香り。
落ち着きのある「いらっしゃいませ」。
何も口にしていなくても多幸感に包まれ、来てよかったとさえ思わせる空間。
わたしはカフェが大好きだ。食べることも好きだがあの落ち着きと高揚感が同居する独特の空間がなんともいえない。小学生のころからケーキ屋になることが夢でひた走って30歳、予定とは違う形にはなってしまったもののケーキ屋で働き、夢をかなえることができた。が、二十歳ごろから別の夢も抱いている。
カフェ経営がしてみたい。
もういい大人が夢だなんだとなかなか言えず、「人生が二度あるなら次はカフェオーナー」と控えめに言っておきながらもその夢は捨てきれずにいる。あきらめの悪い性格がここでも悪さをしてしまっている。逆説的に言えばカフェオーナーをすべく二度目の人生を迎えるためには一度死ななければならないのだが、あいにくの健康体でこの人生もまだまだ続きそうだし、なんならもう少しこの世界戦を楽しんでいたい。
「パンとスープと猫日和」というドラマを見た。
ひょんなことから主人公が運命に導かれるようにしてカフェを経営しすったもんだある話のようだ(まだ半分も見ていないので手持ちの情報もこの程度)。まさに理想の展開である。作中のカフェで出されるサンドウィッチさながら、大変おいしい展開だ。うらやましい。私も何かしらの運命らしきものに引っ張られてうっかり手を出したカフェがそこそこ繁盛する展開に巻き込まれたい。そのためなら苦手な猫も飼うし長年克服できないでいるシイタケだって食べる。
そんなしょうもないこと考えながら梅仕事をする梅雨前の雨降る夜。次の休みはカフェ開拓でもしようかな。